「女性のからだ」
女性のからだ
女性のからだと男性のからだは、一般に考えられているよりも大きく違うものです。医療でも、仕事でも、スポーツでも、男女のからだを同じものと考えて対処すると、いろいろとうまくいかないことが起こってきます。
では、女性のからだが、男性とくらべて、何が大きく違うのでしょうか?
人間として生きていくための器官や機能は、男女でほとんど変わるところはありません。心臓も、胃も、手も足も、男性と女性で、そう変わるところはありません。 サイズや筋肉量などにやや差があるくらいで基本的には同じです。
ただ、唯一違っているのは、「子供を産み・育てる」 ための器官と機能が、女性にだけ備わっています。違いといえばそれだけなのですが、実は、そのことが、男性と女性をまったく違う生き物にしているのです。
女性には、卵巣 ・ 子宮があります。 男性には、精子をつくる睾丸があり、精巣があります。 解剖学的に、目に見える器官の違いはそれぐらいです。 後は、外性器が違うだけです。 (脳にも若干の違いがあり、左右の大脳半球をつなぐ「脳梁」は、女性の方が大きい)
しかし、妊娠 ・ 出産が可能な女性のからだは、体のあり方の根本が男性とはまったく違います。 妊娠・出産にともなうからだの変化というのは、とてもダイナミックです。 まさに生命の神秘ともいえます。 単純に、卵巣があるから、子宮があるから、可能になるなどというレベルのものではありません。
妊娠すると、女性の体は「母胎」という、今までとはまったく違う体に大きく「変身」 します。 それは、まさに 「変身」 というべきからだの変化です。女性のからだにのみ備わっている能力であり、からだの資質です。
そして、女性の体というのは、思春期に月経が始まって以後、閉経までは、いつでも妊娠・出産が可能なように、体はその準備をしつづけています。 初潮を迎えてから閉経まで、その能力を常に保持し続けています。
そして、生命のリズムともいえる 「からだのリズム」 も男性とは大きく違います。女性の場合の 「からだのリズムは」、排卵 ・月経の周期を中心としたリズム、つまり 「妊娠・出産」 を中心においたリズムなのです。
男性の自律神経失調症は、自律神経そのものを調整すれば治ってしまいます。治療のポイントは頚部(くび)になります。 胃潰瘍だったら、胃の治療、そしてストレスで変化する部分の調整などが治療になります。
しかし、女性の場合は、神経系や胃の治療と同時に、婦人科系統の調整が必要になります。からだの変動の元が、卵巣 ・ 子宮をはじめとする、婦人科系(生殖器系)にあることが多いからです。
女性の場合は、いろいろなからだの不調も、子宮や卵巣の働きを調整すると、自然に治ってしまうことが、とても多いのです。逆に、症状の起こっている場所、たとえば胃なら胃だけを調整しても、なかなか良くならないことが多いともいえます。それくらい女性の健康は、種族保存の機能と直結しています。 ですから、女性の健康を考えるときには、女性の医学、女性の治療、女性のための整体が必要になるのです。
骨盤の開閉
女性と男性の違いをつくっているのは、医学的にいうとホルモンの働きの違いということになります。 ホルモンの力は大きいもので、ごく少量で身体を大きく変化させます。 喩えていうと、プールに一滴の目薬を落とすくらいの分量で、からだの働きを十分に変化させる力があります。 女性のからだは、このホルモンによって、女性であるようにコントロールされているのです。
思春期以後、女性のからだは女性ホルモンの働きによって、「子供を産み、育てる」 ということを最優先に機能し、からだのリズムを刻むことになります。そして、その働きは、閉経まで続きます。
では、プールに一滴の目薬ほどのホルモンが引き起こすからだの変化とは、どういうものなのでしょう。 ここでは、西洋医学的に観察されるミクロの変化ではなく、実際に感じられるからだの変化として見てみたいと思います。
妊娠 ・ 出産を可能にする、女性のからだのリズムは、排卵 ・ 月経という形であらわれます。 約28日周期で、排卵と月経をくり返しています。 この排卵・月経のリズムに合わせて、女性の身体にある変化が生じています。 それは、骨盤の変化です。
骨盤は、動かない一つの大きな骨だと思っている方もいらっしゃるかも知れませんが、おしりの上の方に、仙腸関節という左右一対の関節があり、その仙腸関節を中心として、上下・前後・開閉と、さまざまに動いているのです。
特に女性の骨盤は、開閉の動きが大きく顕著です。 最も代表的な例は、妊娠出産です。 妊娠すると、胎児の成長に合わせて、骨盤はだんだんと開いていきます。 そして、出産時には、骨盤が大きく開大します。 骨盤が十分に開ききることで、自然な出産ができるのです。
そして女性の場合、骨盤の開閉は、排卵 ・ 月経とも密接にかかわっています。月経を迎えると骨盤は開いていきます。骨盤の開きは、月経2日目で最大となります。その後徐々に閉まりだして、排卵前後に最も閉じることになります。(月経直前が最も閉まる人も少なくない)
排卵・月経のリズムが自然であるためには、骨盤の開閉がスムーズであることが必要です。このリズムの乱れやすい方は、骨盤になんらかの不都合があると考えられます。
月経の直前にイライラするという人が結構いますが、これは、月経直前に開こう開こうとしている骨盤が、つっかえてうまく開けないことによって起こります。 骨盤の状態というのは、精神状態と密接な関わりがあります。 骨盤が閉まると、からだのエネルギーが集中し、気分は昂揚してきます。 それがいきすぎると、イライラしたり、ヒステリックになったりします。
骨盤が、開くべきときに開かないで、つかえてしまうと、やはり精神的にイライラすることになります。実は、更年期に多いイライラというのは、これと同じメカニズムなのですが、そのことについては後で詳述します。
逆に、骨盤が開くと、からだのエネルギーは分散し、気分的には、なんとなくのんびりとした感じになっていきます。生理中は、気分が乗らなかったり、何をするのもおっくうになったりしやすいのはこのためです。
そして、骨盤が開いているときは、その気分に合わせて、のんびりと過ごすのが、からだにとっては自然です。
骨盤は女性のからだの中心
骨盤は女性のからだの中心です。 女性のからだのリズムは、骨盤の開閉によってコントロールされています。
骨盤は、小さな周期では、排卵 ・ 月経のリズムで変化します。 また、妊娠・出産では、10ヶ月かけて大きく開ききり、やはり数ヶ月かけて元の状態へと戻っていきます。
最も大きな周期としては、思春期のホルモンの変動期から、妊娠出産が可能な時期をとおして、閉経を迎えるという、一生という長いスパンで骨盤の状態は変化しています。
そして、その 「骨盤の変化」 は、常に 「からだ全体の変化」 と連動しているのです。 骨盤は女性のからだをコントロールしている中心です。 ですから、女性のからだの調整も骨盤の調整が中心になります。
そして、実際の治療、からだの調整では、骨盤を中心に、第1・3・4腰椎、第3・4胸椎(乳腺の関係)、第11胸椎(卵巣)などが、治療のポイントになります。
これらの部位は、みな女性が女性であるための機能と直結しているところです。こういうところの変化を丁寧に観察し、調整していくことが、女性のための健康法・ 身体調整の基本になります。
「女性のからだのつながり」 ~手 ・ 足と生殖器のつながり~
女性のからだの中で、下肢(脚・足)というのは生殖器(子宮・卵巣)と深い関係があります。最近は女性同士でも、脚の細い女性がもてはやされているようですが、あまりに細い脚は生殖器系の発育が不十分であるということを示します。 大人になっても、小・中学生のようなヒョロヒョロと細い足だったら、生殖器系の働きが十分でない可能性があります。生殖器系の成熟した女性は、やはりそれなりの大人の脚をしています。
生理が不定期だったり、不妊で悩む人の中には、脚が極端に細い人が多くいます。そして、細いのも、ただ細いというのではなく、やはり未成熟な感じの残る、独特の脚の細さです。
では、太ければいいのかといえば、もちろんそういう意味ではありません。足が太い場合にも、生殖器系の異常とつながっていることがあります。特に、足首が太い場合は、卵巣の機能が悪いことがあります。 そして、不妊症の人の多くは、足首の関節に狂いがあります。 (股関節の異常のこともある)
足首の狂いの原因は、古い捻挫であったり、骨盤や股関節の歪みの影響であったり、いろいろですが、共通しているのは、足首自体に異常感がないということです。始めは痛みや違和感があったのでしょうが、異常が長く続くと、だんだんその部分が鈍くなって、痛みや違和感を感じなくなってしまうのです。
そして、異常感を感じていないということは、からだが治ろうとしていないということでもあります。からだが、異常を異常と認識していないのです。
足首が太いという場合、多くは、脛骨 ・ 腓骨の間が広がっています。 脚の膝から下というのは、内側の脛骨と外側の腓骨の二本の骨があります。脛骨の下端が内くるぶし、腓骨の下端が外くるぶしです。 足首の関節というのは、この脛骨 ・ 腓骨と、いくつかの骨から形成されています。そして、足首の関節がおかしくなってくると、この脛骨と腓骨の間が広がってくるのです。そのせいで、足首が太くなるわけです。
足首の故障で、脚が太くなっている場合は、足関節の調整で細くすることができます。そして、足首を細くすること自体が、生殖器系(婦人科系)の働きを正すことであり、女性を健康にすることでもあります。
足首は卵巣の機能と関係が深いといいましたが、子宮は手首と関係があります。 いえ、関係があるどころか、ある意味直結しています。 子宮の位置異常(後屈など)がある人は、ほとんど例外なく手首の関節がおかしくなっています。そして、実際に手首が痛いと訴える人も多いのです。 そういうときは、この手首の方を調整すると、子宮のいろいろな異常が良い方へと変化してきます。
よく、出産後に手首が痛くなる人がいます。 「毎日、赤ちゃんを抱くからだ」 なんていう人もいますが、これは出産後に子宮がうまく収縮しなかった人に起こる現象です。 赤ちゃんが、おっぱいを吸う刺激は、ある種のホルモンの分泌を促し、お母さんの骨盤を引き締め、子宮を収縮させる力があります。 いろいろな理由で粉ミルクで育てていたりすると、子宮の収縮がうまくいかず、手首も狂いやすい傾向があります。
足首、または足そのものと卵巣、手首と子宮など、女性のからだのつながりは多岐にわたります。もともと一つの受精卵だったのが、だんだんに分化して一人の女性となるのですから、いろいろなところにつながりがあるのは当然ともいえます。
男性のからだと女性のからだは、決して同じものではありません。 女性のからだの仕組みというのは、男性と比べて、とても複雑であり、精巧であり、神秘的です。女性には、女性の医学が必要であり、整体にも女性専用の調整法が必要となるゆえんです。
「男性の骨盤」 ~ omake ~
女性にくらべると、男性の骨盤の動きは、微々たるものです。 上下・前後の動きはそれなりにありますが、骨盤それ自体としてみると、女性とくらべれば動かないようなものです。
この骨盤の動きのダイナミックさが、女性の生命力が男性より強い理由です。男性のからだは女性に比べると変化に弱く、頑丈な割にいざというときには意外ともろいのです。
整体操法で体の調整をしていても、女性のからだは変動も大きい分、変化に強く、病気なども治りやすいのです。
妊娠 ・ 出産の機能を持たない男性のからだは、女性にくらべると単純で変化に乏しいつくりになっています。男性のからだは変化に対応する能力が乏しいので、単純なつくりの割に、からだの異常も治りにくい面があります。 私は男性なので残念ですが、からだの面からいうと、女性のからだは男性より、ずっと高級にできているといってもいいのではないかと思います。
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