野口整体 白山治療院
東京都文京区向丘2-37-3石橋ビル5階

整体的入浴法

 

整体を保つ入浴法

整体という言葉は、一般的には「体を整える治療法」、「身体調整法の技術」というような意味合いで使われています。しかし、同時に整体には、「整った体」という意味もあります。
「整体」であるということは、生まれ持った体の自然を、歪めることなく活かしきっている状態です。本来もっている体の力を十全に発揮できる状態、いきいきと愉しく快適に生活できる心と体であるということです。
 
「整体」の感じというのは、風呂上りのさっぱりとした感じと似ています。 心にも体にもこだわりがなく、とても気持ちの良い感覚です。
整体にはいつも、「快」があります。生きていることそれ自体に快感があるのです。特別何かをしなくても、いつでもそこはかとなく愉しいし、ゆったりと息することの中にも気持ち良さがある。体が整っていれば、それこそ排便や排尿にも快感があるのです。
食べては、味が鮮明で美味しい。適量で満足する。夜は、深くぐっすりと眠れて、朝はスッキリと目が覚める。怒っても、すぐに忘れ、イヤなことも引きずらない。動いては体が軽く、動くことが快い。そういう快適な体を作っていく方法、整体を保っていく方法が「整体法」です。
整体法には、「整体操法」という身体調整技術もありますが、操法だけ受けていれば整体になるというものではありません。日々の生活を、体の自然にそったもの、自分の体に合ったものにしていかなくてはいけません。
健康に生きる道、整体を保つ生き方は、毎日の生活の中にそれぞれが自分自身で実現していくものです。
 
健康を維持していく上で、日々の入浴は大きな意味を持っています。入浴というと体を洗うことだと考える人もいますが、それよりも、お湯につかって温まるということが、お風呂に入ることの重要な意味です。
 
「温まる」ということ、そして、「温度変化を、体への刺激として使う」ということが、お風呂を健康に活かす要点です。
 
最近、入浴に関する質問が多くあったので、ここに入浴に関する基本的なことをまとめました。整体を保つための入浴法です。
ただし、心臓の手術を受けられた方や血圧の変動が激しい方など、体に特殊な事情があり、特別な対応を必要としている方には、ここに書いたすべてのことが体に合うとは限りません。そのような事情がある方は、その方にあった入浴法を個別にご指導いたします。
 
 

入浴温度

入浴の適温は、人によっても違いますし、同じ一人の人でも体調や季節によっても変化します。ですから、本当は、「何度」というのは難しいのですが、整体では一応42度を基準にしています。大人の場合、熱いとぬるいの境目は42度で、42度を越えると熱いと感じます。
しかし、体の弱い人、過敏な人、子供などは40度でも熱く感じます。子供だと、大体38度から39度ぐらいで適温に感じることが多い。
 
ちなみに、赤ちゃんの産湯は、母親の胎内が37~37度5分なので、そのぐらいから始めて、39度ぐらいまでの間で終えます。お湯の温度が39度になれば、体脂も落ちます。赤ちゃんに付いた胎脂は体を守るものですから、いきなり落としてしまわず、1週間ぐらいでかけてきれいになるようにします。
 
さて、大人の適温は一応熱いと感じる温度。熱いけど気持ちがいいという温度が適温です。その平均が42度ということなのですが、平均にあわせることに意味はありませんから、40度で熱く感じれば40度でいいですし、44度で快適なら44度でいいのです。大人であれば、40度から44度くらいの間で適温を探すのがいいでしょう。
 
少し熱いけれど気持ちがいいという温度のお湯につかって、温まったらパッと出ます。温まる時間も、何分とはいえません。時間ではなく、体の感じで上がる「機」(タイミング)をつかみます。場合によっては、1~2分でも十分です。ただ、10分も15分も入っていられるようなら、おそらくお湯がぬるいと思います。
お風呂を出て、体が寒いという場合は、時間ではなく温度が低すぎます。やはり、皮膚がほんのり赤くなるぐらいのお湯の熱さが必要です。
お風呂についている温度表示は、多くは実際の湯温よりも高く表示されるようです。一度、温度計でお湯の温度を測ってみることをおすすめします。
 
ただし、あくまでも温度は目安です。湯に浸かる前に、手を入れてかき回してみて、適温を知るのが基本です。また、夏と冬では適温も変わります。夏の暑い時期に冬と同じ温度にしたら、きっとのぼせてしまいます。しかし、夏でもそれなりの温度は必要です。いつまででも入っていられる温度では、ちょっとぬるすぎます。ある程度入っていたら、熱くて出たくなるくらいの温度があった方が効果があります。
夏でも、冷房の効いた環境で過ごしている人は、シャワーだけでなく、お湯につかることをお勧めします。
 
 

ぬる湯に長湯は体がたるむ

最近は、ぬるいお湯に何十分とか長く入る入浴法が流行っているようです。医師の中にも、勧める人がいるそうです。これはこれで、ある種の効果があることは否定しませんが、日常的な入浴方法としてはお勧めできません。
 
ぬるいお風呂に長く入ると、体がたるんでしまいます。疲れてこわばった体が「ゆるむ」のはいいことです。しかし、「たるむ」のはいけません。「ゆるむ」のは、引き締まることもできる体がリラックスして力みが抜けている、ということですが、「たるむ」というのは、力が抜けてしまって、引き締まることができなくなっている状態です。
 
「ぬる湯に長湯」は、体をたるませてしまい、活力が失われてしまいます。特に、血管もたるんで弾力がなくなりますから、脳溢血や脳梗塞を起こしやすい体をつくってしまいます。脳溢血の後遺症で麻痺がある人などには、湯治のような長湯も治療になりますが、脳溢血の予防法にはなりません。
 
 

中毒解消入浴法

ぬるいお湯に長く入ると、体の毒素が出て行くということがいわれています。汗がたくさん出るのもいいことだと・・・。
しかし、入浴で汗を出すのなら、熱めのお湯に短く入って、お風呂をあがってからワッと汗が出るような、そういう入り方の方が健康的です。
 
毒素排泄効果でいえば、ただぬるいお風呂につかっているだけでは力不足です。ぬるいお湯に入って、そこからお湯を沸かしてどんどん熱くしていくのです。そうすると、体の毒が抜けていきます。
フグにあたったときに砂に埋めるという話を聞きますが、砂に毒素を吸わせるよりも、どんどん沸かしながらお湯に入った方がもっと効果的です。
ただしこれは、何かに中毒を起こしたときなどにおこなう特殊な方法です。野菜の灰汁抜きと同じです。日常的には、沸かしながらお風呂に入ると、どんどん体がたるんでしまいます。ふだんは、あらかじめ、ある程度の温度に上げておいて、適温にしてから入るようにします。
 
入浴は、ゆで卵をつくるとか、野菜を煮炊きするような感覚で入ると失敗します。人間は生き物ですから、物と同じように温めれば良いというものではないからです。「温める」よりも、皮膚を通しての温熱刺激によって、体が「温まる」ようにするのがいいのです。
 
 

温まらない場合

夏場に一日中冷房の効いた部屋にいたり、冬の寒い時期などは、お湯の温度を熱くしても、なかなか温まらないことがあります。かといって、芯まで温まるまでつかっていたら、今度はのぼせてしまいます。
そういう時は、「間をおいて温める」という方法をとります。まず、適温のお湯につかって、「温まってきたな」と思ったら一度上がります。このとき足はそのままお湯につけていてもかまいません。冬場だったら、体は乾いたタオルで拭きます。(上半身をぬれたままにしておくと冷えてしまいます)肩にタオルをかけておいてもいいでしょう。
そして、少し間をおいて、再びお湯につかります。この二回目につかるときは時間は短くていいのです。(場合によっては30秒ぐらいでもいいです)
また、一度お湯から出ている間に、お湯が冷めないようにします。さらに、1度ぐらい湯温を上げておいてもいいでしょう。
 
冬場に足が温まらない場合は、上がり際に最後に足だけ余分に温めてもいいですが、もっといいのは、あらかじめ足だけ温めておく方法です。
一度温めたところは、感度が高まって温まりやすくなっています。入浴の30分か1時間前に足湯か膝湯をしておいて、それからお風呂に入ると足の先まで温まります。
 
 

お風呂はいつ入るのが良いか

整体を保つ上で、最も入浴に適した時間は朝です。朝の入浴は、体の働きを活性化してくれます。それから、秋から冬にかけての冷える時期には、「冷え」の解消のためにも、朝風呂が有効です。冷えた体をいつ温めても同じだと思うかもしれませんが、朝起きてすぐに入浴することは、他の時間に温めるよりもずっと効果があります。また、寝冷えの直接的な解消法にもなります。
 
お風呂というと、一日の疲れをとる、汗を流す、という意味で夜に入る人がほとんどです。もちろん夜に入ることが悪いわけではありませんが、夜にお風呂に入ると体が冷えやすいということは知っておいた方がいいと思います。
特に、寝る間際に入るのはよくありません。汗をかいてそれが冷えるということもありますが、入浴で熱くなった体は、熱を放出して冷ます方へ働きます。
入浴後、体のほてりが冷めるまで、しばらく起きていればまだいいですが、そのまま寝てしまうと、どんどん体が冷えていってしまうことになります。少なくとも、お風呂を出てから就寝するまでに、1時間以上はあったほうがいいでしょう。
 
高齢の方などは、夜に入浴すると冷えて体調を崩しやすいので、昼間の暖かい時間に入ってしまうというのも良い方法です。特に、髪を洗うときなどは、暖かい時間が適しています。
 
 

「快」に従い、「機」を見て、「適」を知る

以上、簡単にではありますが、整体の入浴に関する基本的な考え方を示しました。しかし、これはあくまでも基本路線であり、温度や時間も目安です。
42度では熱いのに、「これが標準だ」と思って我慢しなくてもいいのです。体が冷えたり、疲れがたまって、夜にお風呂につかりたいのに、「朝がいいのだ」と頭で決め付けるのもよくありません。体が求めるときには、体が求めるように行動することができないと、整体には近づけません。 
 
気持ちよく感じることは、基本的に体に合っていることです。人間はいつでも「快」を感じる方向へ行動していくものです。体の要求を感じられるようになること、その要求に沿って行動できるようになることが整体への第一歩です。
また、どのぐらい温まったら上がればいいのか、その「機」をつかむことも大切です。そして、お湯の温度にも、「適」ということがあります。
風呂から上がるタイミングも、お酒を切り上げる潮時も、ここという「機」があります。湯の温度も、食べる量も、睡眠時間も、「適」を知ることが健康を保つ力となります。
 
整体に近づいていくために大切なことというのは、実は日々の生活の中にあります。お風呂に入るということ一つとっても、興味を持って取り組むと、いろいろな発見があると思います。入浴を一つのきっかけにして、生活の中の様々なことに対して、自分の体の感覚を通して新鮮な気持ちで向き合ってみると、心も体も少しずつ変ってくるのを実感できると思います。